
誰もが持つ身勝手さ、愚かさ。程度の差はあっても、結局みんな自分本位・・・そんな人間の負の側面をしっかり見せ付けてくれます。でも、愚かさの中にも、人間の素晴らしさが光ったりするんですがね。
Story
土木作業員の清水祐一(妻夫木聡)は、長崎の外れの寂れた漁村で生まれ育ち、恋人も友人もなく、祖父母の面倒をみながら暮らしていた。ある日、出会い系サイトで知り合った福岡の保険会社のOL・石橋佳乃(満島ひかり)との何度目かのデートに向かうが、彼女は待ち合わせ場所で思いを寄せる裕福な大学生・増尾圭吾(岡田将生)に偶然出会い、祐一には捨てゼリフを残して増尾の車で立ち去る。自分の車で後を追った祐一は、峠道で増尾の車から叩き出された佳乃を拾おうとするが、「レイプされそうになったと訴えてやる。あんたの言うことなんて誰も信じるもんか!」と理不尽に詰られ、思わず殺してしまう。そんな祐一の下に、佐賀の紳士服量販店に勤める馬込光代(深津絵里)からメールが届く。妹と2人で暮らすアパートと職場との往復だけの単調で退屈な毎日を過ごす光代。妹には恋人がいるが、光代にもまた恋人も友人もいなかった。やはり出会い系サイトを通じて、光代とメールだけの遣り取りをしたことがあった祐一は、彼女の誘いに応じて、車で佐賀へ。初めて顔を合わせた2人は、共に孤独な魂を抱え、その日のうちにホテルへ。やがて、佳乃の絞殺死体が発見され、当初は増尾が疑われるが、すぐに祐一が最有力容疑者として捜査線上に浮上する。祖母・房枝(樹木希林)との電話でそのことを察知した彼は、光代のもとへ向かい、佳乃を殺めたことを打ち明ける。光代は衝撃を受けるが、警察に自首するという祐一を引き止める。生まれて初めて本当に人を愛する喜びを知った2人は、絶望的な逃避行へ・・・。以前から話題にしていた、地の果てとも思える灯台に忍び込んだ2人は幸福なひとときを迎えるが、その逃亡が生んだ波紋は、被害者の家族、2人の家族の人生をも飲み込んでいく。やがて、灯台に警察の手が伸びてきた時・・・。
(Movie Walkerより90%以上改変)
原作者の吉田修一さんも共同脚本に参加したこの作品、なかなか見応えありました。平日にも関わらず、受賞効果か、わりに広いシアター1は結構な客の入り。女性の1人客も多かったです。
後で振り返ってみると、出会って間もない祐一と光代が、なぜあれほど惹かれあったのか、少し描写不足な気もしますが、妻夫木君と深津さんの演技に説得されて、観ている間は全く気にならず。現代に生きる人間の孤独、焦燥、虚無が2人の表情からヒシヒシ伝わってきました。モントリオールで主演女優賞の深津さんも良かったけど、個人的には妻夫木君の演技が印象深かった。特に、佳乃にコケにされた直後に、歪めた顔。観ていてぞっとするような、やりきれなくなるような・・・。
人を殺した以上、確かに祐一は「悪人」。
・・・とは、言い切れないモノが残ります。佳乃が祐一に取った態度は、人として褒められたものではないでしょうから。でも、佳乃にも捌け口が必要であり(あまりに愚かな言動ですが)、彼女を喪った両親(柄本明・宮崎美子)の姿や、彼女と父親とのやりとりを観ていた観客としては、「殺されて当然」とも思えないわけで・・・。
逃亡先から電話をかけてきた光代を心配する妹は、光代が自分の意志で祐一と逃げたことを知ると、一転、姉を罵倒する。一瞬「なんと冷たい妹か!」と思いかけますが、周囲から好奇の眼で見られているであろう妹からすれば、腹も立つでしょう。
増尾はどうしようもないボンボンですが、彼の日常的なイライラは、取り巻きはいても友人はいない彼の孤独にも原因があるように思えます。そして、彼がスポイルされてしまったのは、彼自身のせいではない。
その増尾に罰を与えようとする佳乃の父・佳男の行動は一歩間違えば犯罪。彼が、増尾の友人のひとりに語る言葉は重い。
何が、誰が、「善」であり、「悪」であるのか?観ていると分からなくなってきます。
今回、ここから結末に触れます。
警察が踏み込む直前、祐一は光代の首を絞めます。でも、恐らく本当に光代を殺すつもりは無かったと思います。自分が逮捕された後に、光代が「殺人犯と一緒に逃げた女」ではなく、「被害者」として、世間に出ていけるようにと慮ったのでしょう。警察によって引き離された2人の手が、繋がろうとして繋がらないシーンは、切ないものがあります。再び職場に戻った光代は、多分、祐一を待っているでしょう。それがせめてもの救いです。
『悪人』公式サイト
http://www.akunin.jp/
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