2006年05月28日

Recommended Book 伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」

 次はそろそろオススメの時代・歴史小説を・・・と思っていたのですが、映画化記念exclamation&questionということで、今注目の若手作家、伊坂幸太郎氏の都会派サスペンス(by文庫本裏の作品解説)「陽気なギャングが地球を回す」をレコメンド。先日、待望の続編「陽気なギャングの日常と襲撃」が発売されました。文庫本になるのが今から楽しみです。


伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」(祥伝社文庫)

 何の努力も要さずとも目の前の他人の嘘を100%見抜いてしまう男、成瀬(37歳・市役所係長・バツイチ)。
 動物好きで純粋な心の持ち主でありながら、天才的なスリの腕を併せ持つ20歳の青年、久遠(くおん:フリーター)。
 成瀬の高校時代の同級生で、あることないことひたすら喋る、口から生まれて来たような男、響野(きょうの:妻と一緒に喫茶店経営)。
 正確無比な体内時計と卓越したドライヴィング・テクニックを操る雪子(派遣社員・中学生の息子を持つシングルマザー)。

 彼ら4人は銀行強盗のチーム。頭脳明晰・冷静沈着な成瀬が立てた計画に基づき、人を傷つけず、鮮やかかつ速やかに金を奪う。準備も経過も結果も常に完璧で、そこに失敗の2文字がつけ入る隙はない。

 そして、今回もいつも通り銀行から金を奪って雪子の運転する車で逃走。ところが、同じく逃走中の現金輸送車襲撃犯(響野に言わせれば、現金輸送車襲撃という犯罪には「ロマンがない」)の車と鉢合わせし、大事な自分達の「売上」を横取りされてしまう。

 「売上」の奪還に動き出した成瀬達だが、割り出した現金輸送車襲撃犯の1人が住むマンションへ行くと、そこには死体が・・・。


 常に完璧だった計画に、なぜ今回に限って横槍が入ったのか?どうやって、敵の主謀者に近づき、そいつを欺き、現金を奪い返すのか?快調なテンポで進むストーリーは、とにかく読む者を飽きさせません。理屈抜きで楽しめる1冊ですぴかぴか(新しい)

 この作品の大きな魅力は、登場人物のキャラが立っていること。彼らの織りなす会話はおしゃれで、愉快で、思わずほくそ笑んでしまいますわーい(嬉しい顔)

 (ネタバレにならないように)ストーリーの根幹とは関係のないシーンを、その例として引いておきましょう。

 久遠たちは、窓際の四人がけテーブルに座っていた。暖房の効いた店内にはジャズピアノが流れている。
 力強い弾き方が心地良かった。十分ほど前に名前を聞くと、「ミッシェル・ベトルチアーニ」と響野が答えてきた。
「生きてる人?」久遠が気に入る演奏者はたいてい死んでいる。
「少し前に死んだんだ」響野の答えは案の定、そうだった。「でも、この強くてリズミカルな演奏、恰好いいだろう?このピアニストは本当に恰好いいんだ。死人の演奏とは思えないだろ」

 銀行員や人質達の前で行う響野の演説がまた秀逸なんですが、それは読んでのお楽しみということで。


 さて、ちなみに今公開中の映画では、成瀬:大沢たかお、響野:佐藤浩市、久遠:松田翔太、雪子:鈴木京香というキャストですね。

 原作を読んだイメージ(もちろんあくまで僕のイメージですが)からすると、ハードボイルドな雰囲気漂う成瀬には、もう少しくたびれた渋い中年の俳優(誰だ?ふらふら)が良いのでは・・・と思います。大沢さんでは、ちょっとスマート過ぎるような・・・。

 響野が佐藤浩市さんというのも、ワイルドでカッコよすぎる気がします。もっと軽薄で、いい加減そうで、ちょっと冴えない感じの俳優(誰だ?ふらふら)が合っているのではないでしょうか?

 鈴木京香さんも、クールでシャープな雪子のイメージとは少し違うような・・・。

 と勝手ばかり言いましたが、実際に映画を観て、その演技を見れば、また印象も変わるかも知れませんね。


 現在のところ、文庫で読める伊坂氏の作品は、「オーデュボンの祈り」「ラッシュライフ」とこの「陽気なギャングが地球を回す」の3作品のみ。実は、僕が最も気に入っているのはデビュー作の「オーデュボンの祈り」(だったら、それを紹介しろよ!たらーっ(汗))。村上春樹がミステリを書いたら、こんなふうになるのでは・・・?という作品です。

 伊坂氏は、すごい才能を秘めた作家なんじゃないか・・・という気がします。残りの作品も文庫化されたら、すべて読むつもりです。

映画「陽気なギャングが地球を回す」公式サイト
http://www.yo-gang.com/


↑ 退屈させませんよ!
posted by ふくちゃん at 22:24| 兵庫 ☁| Comment(6) | TrackBack(1) | Recommended Book | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
その男は堅実無比に
ただひたすらに仕事に邁進して生きてきた
浮いた話や華やかさと艶やかさとも無縁に

しかしそんな男の周囲には何故か異形の者達が集っていた

銀玉に取り付かれた美乳の女
昼と夜の見境なく発言を繰り返す男
嫁と娘に弱いが夜中にゴソゴソ蠢く男
常にハイテンションでシビアな目を持つ男
日本に生まれた日本語の不自由なダンサー
堅実無比に見えて女にAVを紹介させる男

どうみても折り合いがつくはずがないのに
何故か折り合いのつく不思議な集団

ただ唯一の目的があるからこそ
強固な連帯感が存在したのかも知れない

男が忌み嫌うものが世間には存在した
責任を放棄しながら搾取だけを繰り返す者
無責任な発言と甘言を繰り返す調子だけの者
専門用語を散りばめて相手を撹乱させる者
ただひたすら媚び諂いご機嫌をとる者

そんな世間と闘うためだけに存在した連帯感

全ての存在が男のように理想を追求するために
自己責任を完結していたのであれば
そんな連帯感はなかったかもしれない
Posted by Mr.Prison at 2006年05月28日 23:24
先日は、トラックバックありがとうございました♪ここにも美味しそうな話題が一杯でしたね!本文とは関係ないものになってしまいましたが。。。(@@:)すみません!また、遊びに来ます♪
Posted by yukarin at 2006年05月29日 19:16
>Mr.Prisonさん。
そんな魑魅魍魎に囲まれていたとは。
・・・^^;。
こわ。

>yukarinさん。
コメントありがとうございます。
本文と関係なくても歓迎いたします(^^)。
僕もまた遊びに行きますので、気が向いたら三宮のオススメのお店を教えて下さい。
Posted by ふくちゃん at 2006年05月29日 23:23
映画では、佐藤浩市さんは髪を染めて無理やりに軽薄さを演出していましたね。私は原作をまだ読んでいませんが、「この佐藤浩市は違う!」って思ってしまいました。佐藤浩市さんは、マークXのCMのように、ダンディーな上司っていうイメージの方が好きです(*^^*)
Posted by michelle at 2006年05月31日 11:40
>michelleさん。
映画はご覧になりましたか?
僕は先週末、どちらを見に行くか迷った末、「ダ・ヴィンチ・コード」を見に行きました^^;。
ところで、あのCM。
あんな格好いい上司、きっとなかなかいませんね(^^)。
Posted by ふくちゃん at 2006年05月31日 23:33
映画、見てません!だって、あんな浩様、嫌ですも〜ん。どっちかっていうと、「雪に願うこと」の方が、本来の浩様っぽいんじゃないでしょうか。
ふくちゃんさんも、CMのような上司になってください!
Posted by michelle at 2006年06月03日 13:50
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック

伊坂幸太郎【陽気なギャングが地球を回す】
Excerpt: 「嘘を見抜く名人」とか「正確な体内時計の持ち主」といった、ちょっと変わった銀行強盗が登場する。 非現実的だが、強盗の話でリアル感だけを追求するとシャレにならない。ニュースとか新聞を見れば、そんな..
Weblog: ぱんどら日記
Tracked: 2006-08-03 17:02
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。