光原百合さんのデビュー作「時計を忘れて森へいこう」の単行本は1998年刊行、「このミス(このミステリーがすごい!)99年版」(宝島社)では堂々15位にランクイン。長い間、待っていましたが、先日ようやく文庫化されたので、早速買って読みました。
光原百合「時計を忘れて森へいこう」(創元推理文庫)
主人公、若杉翠(わかすぎ・みどり)は高校生。学校行事で訪れた自然や環境を学ぶ体験教育の森で、自然解説指導員(レンジャー)の深森護(みもり・まもる)と出会う。
日々、動植物と対話しながら、森を世話する護は、穏やかで心優しい青年であると同時に、表面的・断片的な情景や情報から、その奥に息づく真実を見抜く「名探偵」でもある。
ある日、高校の国語科研究室の前で、翠は「アタシガ、コロシタ」と呟く女の子の声を聞く。それは、普段は元気で明るい友人・恵利の声。そして、続いて聞こえてきたのは、やはり普段は温厚な田崎先生の「俺のいうことをきけ!」という怒鳴り声と平手打ちの音。
その場に一緒に居たクラスメイトの冴子とドアを開けて研究室に入ってみると、両頬を押さえて鼻血を流しながら泣きじゃくる恵利と、人が変わったような凄い剣幕の田崎先生が・・・。
何があったのか?事情や理由を聞いても答えない恵利と田崎。冴子は、「田崎の体罰を問題にする!」と息巻く。しかし、翠からこの話を聞いた護は、そこにある事実から全く別の真実の物語を紡ぎ出していく・・・。
以上が第1話。
この作品に収められた3つの話には、殺人事件もトリックも登場しません。しかし、「謎」と「意外な真実」、そして「解明のための伏線」はキチンと揃っています。いわゆる「日常の謎」派のミステリですね。基本的に、登場人物は善人ばかり。そこに物足りなさや青臭さを感じる方もいるかもしれませんが、爽やかで優しい読後感の作品です。
では、僕の印象に残った、護のセリフを2つ。
「(前略)同じものを見ても、見る人によって世界はまったく違った姿に映る、それはどうしようもないことかもしれません。自分の見方を押しつけるのはおこがましいことだとわかっているつもりです。それでも、人を不幸にする見方と幸福にする見方があるのに不幸にする見方しか気づかない人がいたら、もう一方の存在だけでも教えるべきじゃないかって気がするんです。(後略)」
「僕は宗教のことはよく知りません。だけどね、万人に通用する励ましの言葉なんて、あるのかな。立ち直る力も、心の安らぎも、本人が自分で見いだすよりないんじゃないでしょうか。そのとき周囲の者にできるのは、その人のそばにいることだけでしょう。これは難しいですよ。何かできるときに何かしてあげることは簡単ですが、何もできないとわかっていて、それでも全身全霊をあげてそばにいるのは本当に難しい」
僕は乱読派で、ミステリもいろんなタイプのものを読みますが、自分が気に入った作品を振り返って行くと、やはり一定の傾向というか、特徴がありますね。
まず、これはミステリに限りませんが、中学・高校を舞台にしたもの、あるいは舞台は違っていても中学生・高校生を主人公にしたものが好きです。「学園」モノ、「青春」モノとでも言いますか。例えば、恩田陸さんの「六番目の小夜子」や「麦の海に沈む果実」、辻村深月さんの「冷たい校舎の時は止まる (上)(中)(下)」など。
それから、探偵役が現場に行かず、関係者や友人から聞いた情報だけで真相を看破してしまう「安楽椅子探偵」モノも好きです。「日常の謎」もこれに含まれますね。例えば、「花の下にて春死なむ」に始まる北森鴻氏の「ビアバー・香菜里屋」シリーズ、「空飛ぶ馬」に始まる北村薫氏の「円紫師匠と私」シリーズとか。
あと、冴えない中年と魅力的な若い女性の探偵コンビ・モノ。決して自分の願望を投影しているわけではありません(いや、してるのかな)。ただ、昔から好きなんです、このパターン。例えば、「幽霊列車」に始まる赤川次郎氏(最近読まなくなったなぁ)の「幽霊」シリーズ、「すべてがFになる―THE PERFECT INSIDER」に始まる森博嗣氏の「S&M(犀川と萌絵)」シリーズとか。
いやあ、ミステリって、本当にいいもんですね。
・・・。
BOOKLOG・WEB本棚「読書狂の本棚」でも、僕のお気に入りの本をたくさんご紹介しています。良かったらご覧下さい。
↑ ミステリ嫌いの人にも読んでほしいです。
先ず結論ありきで行動し
他人に己の美学を語ることを良しとする
甘酸っぱい学生時代の思い出に浸りながら
自己主張を最後まで突き通し
自分らしさを具現化する
他人の見る目は気にならないが
自分らしさを追及するためには
金に糸目をつけることは無い
一貫したその生き方は
時には周囲との衝突を繰り返すが
決して己を曲げる事は無い
勘なしとも言われながら
決してその存在は色褪せることは無い
そう、その男はそれでこそ存在意義がある
「他人に己の美学を語ることを良しとする」
それじゃ単なる嫌な奴でしょ^^;。