2006年11月19日

Recommended Book 池波正太郎『鬼平犯科帳』

 このカテゴリも久しぶりの更新です。リアルタイムの読書記録を綴る「読書狂日記」、過去の全ての読書歴(漫画を除く)からオススメ本をセレクトして簡単なコメントを添える「読書狂の本棚」と比べて、書くのに時間がかかるんです・・・ふらふら

 さて、今回は時代・歴史小説の中からオススメの1冊を。

 時代・歴史小説というと、中高年男性の読み物、というイメージが強いような気がします。偏見かも知れませんがふらふら。僕も若い頃はほとんど読みませんでした。

 しかし、きっかけは忘れてしまいましたが、30代になったあたりから読み始め、「こんなに豊かな世界があるのなら、もっと早く読んでたらよかったなぁ・・・」と思ったものです。

 とはいえ、ある程度の年輪を重ねたからこそexclamation&question、そう感じられるのかも知れませんが。

 このジャンルには、お気に入りの作品がいろいろあるので、どれをrecommendするか迷いましたが、池波正太郎さんの3大人気シリーズのひとつ『鬼平犯科帳』で行きます。

 ま、1冊というか、全24巻ですがわーい(嬉しい顔)


 鬼平とは「鬼の平蔵」。つまり、江戸の凶悪犯罪を取り締まる火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)・長官の長谷川平蔵のこと。木造家屋中心の時代には、「火付け」=放火は風向きによっては延焼につぐ延焼で大火になりますから、とてつもない重大犯罪であり、犯人は死罪だったんですね。

 それはさておき、この作品は主に一話完結形式(長編作品もあり)で、平蔵を「お頭」とする火付盗賊改方とその協力者の面々が、毎回様々な盗賊たちと対決し、捕縛するまでを描いています。

 登場する盗賊についても丁寧に書き込まれ、「金持ちからしか盗まない」「無益に人を傷つけない」「女性に手を出さない」の3か条を守り、何年も前から奉公人として手下=「引き込み」を潜り込ませて徹底的に下調べした上で、家人が誰も気付かぬうちに盗みを完遂してしまう「本格」の盗賊や、その対極の手早く荒っぽい「畜生働き」「急ぎ働き」をする極悪の盗賊、あるいはひとりで「おつとめ」する者など多彩な手口やキャラクターで、平蔵とのスリリングな(時にユーモラスな)頭脳戦が楽しめます。

 3大人気シリーズの他の2編、『剣客商売』(新潮文庫・全16巻+番外編2作3巻)、『仕掛人・藤枝梅安』(講談社文庫・全7巻)と異なるのは、主人公が歴史上実在の人物であるという点ですが、この長谷川平蔵の人物造形が『鬼平犯科帳』の最大の魅力です。

 平蔵には、妾の子供であったために鬱屈した日々を送り、家を飛び出して、本所・深川あたりで酒と女とけんかに明け暮れ、「本所の鬼」などと呼ばれるイッパシの「顔」になり、放蕩三昧の無頼漢として過ごした青春の時期があります(このあたり史実らしいです)。無頼漢とは言っても、強くて気風が良くて、弱い人に優しく、市井の人々からは人気者でもありました。

 そのような若い頃を過ごしたことが、平蔵の人間性に何とも言えない深みを与え、また、その時に悪党の世界を覗いた経験が火付盗賊改方の仕事にも役立っているわけで、歴とした「殿様」であるにも関わらず、気取らないざっくばらんなキャラクターが非常に魅力的なんですね。

 一方で、非情な悪には冷厳な態度で臨み、自ら体を張って命を惜しまず粉骨砕身し、部下である与力・同心・密偵に対しては、深い愛情と厳しさを持って接します。

 平蔵の優秀な右腕・火付盗賊改方与力の佐嶋忠介。

 色白でぽっちゃり、仲間内では「兎忠(うさちゅう)」、平蔵からも「うさぎ」と呼ばれ、酒好きで食い意地が張っていて、いい女には滅法弱いながらも、憎めないキャラの火付盗賊改方同心・木村忠吾。

 平蔵に捕らえられた盗賊でありながら、その人柄に惚れ込んで足を洗い、平蔵のために働く数多くの密偵たち(シリーズが進行するにつれ、段々増えます)。

 無頼時代の取り巻きで、今は密偵の彦十じいさん、若い頃、道場で平蔵と「竜虎」と並び称された剣客・岸井左馬之助などなど、長いシリーズなのでレギュラー的な脇役が沢山登場するんですが、彼らのキャラもしっかり書き分けられており、ずっと読んでいると親しみすら感じるようになって、それがまた楽しいんですね。

 平蔵と彼を慕う部下や仲間との絆には、読んでいて胸が熱くなることもあります。それだけに、密偵のひとりがシリーズの途中で命を落とすシーンにはビックリしたし、実に切なかったなぁ・・・(連載当時もかなり反響があったようです)。

 あと、『剣客商売』や『仕掛人・藤枝梅安』にも言えることなんですけど、単純な善悪二元論・勧善懲悪ではなく「人は善を行いつつ悪も行い、悪を行いつつ善も行うものだ」という人間観も味わい深いです。

 そして、なんといっても食事のシーンや料理の描写がとにかく美味しそうるんるん。池波さんは、食に対するこだわりも相当な方だったそうですが、作品に登場する料理をプロが再現した本も出版されています。

 ・・・僕は、読んだ後、料理や酒がたまらなく欲しくなる小説は、無条件で良い小説と認めますぴかぴか(新しい)。いつか、そういう小説ばかりを、このカテゴリで紹介しようかな。

 それから、『鬼平犯科帳』のもうひとつの魅力は、そこはかとないユーモアと緊迫した場面のバランスの良さですね。そこは三大人気シリーズの中でも随一ですグッド(上向き矢印)


 ところで、ご存知の方も多いでしょうが、『鬼平犯科帳』『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』の3作品とも、何度もTVドラマ化されています。特に、中村吉右衛門さん演じる「長谷川平蔵」はイメージ通り(池波正太郎さんも認めている)で誠にカッコよいです。

 しかし、残念ながらTVの時代劇って・・・バッド(下向き矢印)。原作の素晴らしさに負けていないものというと、今パッと思いつくのは、藤沢周平さん原作の『用心棒日月抄』(主演・村上弘明)とか『三屋清左衛門残日録』(主演・仲代達矢)ぐらいかな。どちらもNHKでした。NHKといえば、昔の大河ドラマは面白い作品も多かったんですけどね。

 TVの時代劇を見て、時代・歴史モノは面白くないと思っている方、小説は全然別モノです。僕は『鬼平犯科帳』も『剣客商売』も『仕掛人・藤枝梅安』も3回読みましたが、何回読んでも楽しめる、読書の至福を感じられる作品です。食わず嫌いはモッタイナイexclamation×2

 
↑ 小説は巻数が多いし、SET BOXも無いようなので。
posted by ふくちゃん at 23:48| 兵庫 ☔| Comment(3) | TrackBack(1) | Recommended Book | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
私は20代ですが、池波正太郎作品大好きです!(笑)昔、テレビシリーズを親が見ていて、そのころは話が理解できませんでしたが(小学生だから当たり前ですが…)、大人になってテレビを見返したり小説を読んだりしてその魅力にはまってしまいました!毎回号泣です!義理人情とか、物事の道理といったものを教えてくれる作品ですよね。そういったものが廃れてきている現代社会に生きているので、なおさら心に染み入りるような気がします。
あと、ふくちゃんさんもおっしゃっているように、もう1つの魅力はグルメですよね!小説を読んでいるだけで生唾が出てくるぐらい、食事の場面が丁寧に描かれていますもんね。

こういう作品をもっとたくさんの人が読んで、人に対する思いやりとか生き方について考えてほしいと思います。

余談ですが、先日「武士の一分」の原作である、藤沢周平の「盲目剣谺返し」を読みました!夫婦愛がさりげなく描かれていて、こちらも感動ものです。ちなみに、藤沢周平も私のフェイバリットな作家です!
Posted by michelle at 2006年11月21日 13:07
>michelleさん。
20代にして、池波&藤沢がお好きとは、日本もまだ捨てたもんじゃありません(笑)。
情緒ある江戸モノとしては、平岩弓枝『御宿かわせみ』、北原亞以子『慶次郎縁側日記』、宇江佐真理『髪結い伊三次捕物余話』なんかもオススメです。
Posted by ふくちゃん at 2006年11月21日 23:51
「御宿かわせみ」も「慶次郎縁側日記」も大好きですよ〜!ちなみに、私の時代小説の最初は山本周五郎「さぶ」でした。
Posted by michelle at 2006年11月23日 10:49
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Excerpt: 鬼平犯科帳鬼平犯科帳(おにへいはんかちょう)は、池波正太郎の時代小説。「オール讀物」に連載。火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を主人公とする捕物帳で、『剣客商売』『仕掛人・藤枝梅安』とならび人気を保っている..
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Tracked: 2007-09-29 22:52