2007年10月26日

映画『パンズ・ラビリンス』

 水曜日、会社帰りに『パンズ・ラビリンス』を鑑賞。たびたび劇場で予告編を目にはしていたものの、いまひとつ興味は持てなかったのですが・・・。

 あちこちのブログで結構評判が良いのと、少し映画を観ない日々が続いて何だか映画欠乏症になり、「ああexclamation劇場でフィクションの世界に浸って、日常の垢を落としたいexclamation×2」という気持ちがどうにも高まってしまい、足を運びました。

 ま、予定ではもともと今週土日に『クワイエットルームにようこそ』と『自虐の詩』を観るつもりなんですけどね。


Story
1944年、内戦終決後のスペイン。父を亡くした少女オフェリアは、身重の母と共にゲリラが潜む山奥で暮らし始める。そこは母が再婚したゲリラ鎮圧にあたるフランコ軍のビダル大尉の駐屯地だった。体調の思わしくない母を労りながらも、冷酷な義父にどうしても馴染めないでいた彼女の前に妖精が現れ、森の中の迷宮へと導く。そこではパン(牧神)が人間界を見に行って記憶を喪い、人間となってしまった王女の帰還を待っていた。オフェリアはパンから魔法の王国に戻るための3つの試練を与えられるのだった。
(goo映画より若干改変)


 で、結論から申し上げますと、「面白い!楽しい!」というタイプの映画ではありません。

 でも退屈したかというとそんなこともなくて、初めのうちこそ睡眠不足で欠伸を連発しながら観ていたのですが(最近こればっか・・・ふらふら)、すぐに独特のダーク・ファンタジーの世界に引き込まれ、相当集中して最後まで鑑賞しました。

 オフェリアを異世界へ導く虫(=妖精)や牧神パンは不気味、巨大ガエルやペイルマンといった怪物たちの造型はグロい・・・バッド(下向き矢印)。そして、スペイン内戦後のフランコ政権とレジスタンスの抗争という歴史的事実の下に描かれる、オフェリアを取り巻く現実世界の過酷さ。異世界の怪物より、ファシズム野郎=人間の方がよっぽど怖いじゃねーかよ!などと思いながら、目を覆いたくなる「痛い」シーンを見続け・・・(PG12は妥当かも。夢に出るぞ)。

 オフェリアにとって、ハッピーエンディングなのか、それともアンハッピーエンディングなのか・・・複雑な感慨を残すラストでした。

 ちなみに、パンフレット掲載のインタビューでは、監督自身はハッピーエンディングであると答えていますね。

 そのパンフレットでは、大学教授で評論家の中条省平氏が、この映画はイニシエーション(通過儀礼)の物語、すなわち3つの試練を乗り越えることで少女が大人になる成長の物語だと書き、監督のインタビューを担当したジャーナリストの佐藤久理子氏は、この映画の最大の特徴はファンタジーにありがちなイニシエーションの物語ではないことにある、なぜなら大人になることを拒否した少女の物語だからだと述べています。

 真逆の捉え方ですね。面白いです。僕自身は佐藤派かなぁ。インタビューを読んでも監督の意図はこちらでしょう。正解は観る人それぞれにあっていいとは思いますがわーい(嬉しい顔)

 それはともかく、今の世の中にはフィクションを凌駕するような出来事が、時に現実の世界で起こります。そんな現実の前で、物語は無力だと言う意見もあるでしょう。でも、本当に優れた物語には、その物語と接した人間を変えることで現実を変える力があるし、ズッポリと物語に没入した後では、その人はそれまでとは少し(あるいは全く)違う地平にいたりするのです。

 ・・・という意味のことを村上春樹氏はよく語っていたと思いますが、そんなことをちょっと連想した映画でした。


『パンズ・ラビリンス』公式サイト
http://www.panslabyrinth.jp/
ラベル:映画レビュー
posted by ふくちゃん at 00:49| 兵庫 ☀| Comment(6) | TrackBack(26) | Cinema Review | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
観に行かれたんですね。私にとっては感想の
難しい映画でした。良いとも悪いとも言いがたい
ような。パンフレットは売り切れで買えなかった
のですが、ちゃんと読んでみたくなりました。
「クワイエットルーム」、昨日観に行ってきましたよ(^^)
Posted by mirai-creek at 2007年10月27日 12:11
>mirai-creekさん。
うん、そうですね。
画面に引き込まれて没入はしましたが、好きな映画かどうか聞かれると、正直困ります(笑)。
Posted by ふくちゃん at 2007年10月27日 23:51
初めまして!TBありがとうございました。
私も、久理子さんの意見に1票です。
イニシエーションのように見えて、そうでないところがポイントなのかもしれませんね。
彼女自身が拒否したのか、それとも人間の残虐さによって、そういう状態に追い込まれたかは別として。
Posted by とらねこ at 2007年10月30日 03:38
>とらねこさん。
試練によって少年少女が大人になるというのは、ファンタジーの定型ですけど、この映画にはそれは当てはまりませんね。
オフェリアにとっては、人間世界こそが異世界だったのでしょうか。
Posted by ふくちゃん at 2007年10月30日 21:16
こんにちは♪
あれをハッピーエンドとは捉えることが出来ませんでした。
現実世界でもオフィリアには幸せになってほしかったです。
力のあるファンタジーにすっかり魅せられてしまいました。
Posted by ミチ at 2008年01月13日 12:03
>ミチさん。
確かにどんなに苦しくとも現実こそが生きるべき世界だと考えると、あれはハッピーエンドではありませんね。
あえて分かりやすい結末を回避したところに、この映画の良さがあるような気がします。
Posted by ふくちゃん at 2008年01月14日 16:38
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